広島地方裁判所 昭和42年(行ウ)26号 判決 1968年3月27日
原告 高橋弘文 外一七名
被告 庄原市公平委員会
主文
被告が昭和四二年七月二五日原告らの不利益処分審査請求事件につき、請求を却下した各裁決は、いずれもこれを取消す。
原告らのその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告らの訴訟代理人は、「被告が昭和四二年七月二五日原告らの不理益処分審査請求事件につき、その請求の受理を取消し、請求を却下した各裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。
一、原告らはいずれも庄原市職員として、原告高橋、菅原及び青木は市民課に、原告郷原、竹本及び植松は福祉事務所に、原告尾長、新明、新田、前岡、松村、石川及び津田は税務課に、原告原田は産業課に、原告中山は建設課に、原告永宗は教育委員会事務局に、原告八谷及び神田は農業委員会事務局に、それぞれ勤務していたところ、訴外庄原市長は昭和四二年一二月二二日原告高橋及び郷原に対し、免職処分を、同月二七日原告新明、竹本、新田に対し、三箇月間給与の一〇分の一を減ずる減給処分を、原告菅原、青木、植松、尾長、前岡、松村、石川、津田、原田、中山に対し、一箇月間給与の一〇分の一を減ずる減給処分を、それぞれ行い、訴外庄原市教育委員会は同日原告永宗に対し、一箇月間給与の一〇分の一を減ずる減給処分を行い、訴外庄原市農業委員会は同日原告八谷に対し、免職処分を、原告神田に対し、一箇月間給与の一〇分の一を減ずる減給処分を、それぞれ行つた。
二、原告らは昭和四二年二月一七日被告委員会に対し、それぞれ右処分の取消を求めて、地方公務員法第四九条の二に基づく不利益処分審査請求の申立をするとともに、右各申立につき、公開による口頭審理を要求していた。
三、ところが、被告は、同年三月二〇日右各申立を受理し、その旨原告らに通知しながら、同年七月二五日原告らの各申立の受理を取消し、原告らの各申立を却下する旨の裁決をなし、そのころ原告らに対しその旨通知した。
四、そして、本件各裁決の理由は、原告らが地方公務員法第三七条第一項に違反して、争議行為をなしたものと認められるから、同条第二項により、被告に対する不利益処分審査請求権がないというものである。
五、しかし、本件各裁決は次の理由により違法である。
(一) 被告は、原告らが本件各審査請求事件において、争議行為をしたことを自認している旨主張するところ、右が被告の独断であり、原告らは争議行為をなしたこともなく、また争議行為をなしたことを自認したこともないのであるが、かりに、原告らが地公法第三七条第一項違反の争議行為をなしたことが認められるにしても、争議行為をなしたことを理由になされた本件各懲戒処分の適法性ないし相当性につき審査することなく、争議行為をなしたことをもつて、直ちに被告公平委員会に対する不利益処分審査請求権なしとして、右申立の受理を取消し、却下の、裁決をなしたことは、地公法第三七条第二項の解釈適用を誤つた違法の裁決である。
(二) 被告は、地方公務員が地公法第三七条第一項違反の争議行為をなし、懲戒処分に処せられた場合は、同条第二項により公平委員会に対する不服審査請求権をも喪う旨主張するが、同条同項を右の如く解すべき理由はない。
(三) 被告は原告らの本件不服審査の申立を受理しながら、これを取消して右申立を却下しているが、いつたん慎重な調査手続を経て、適法に受理されたものを理由なく取消すことは被告公共委員会規則に違反し、違法である。
六、よつて、原告らは被告に対し、本件各裁決の取消を求めるため、本訴請求に及ぶ。
被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、事実に対する答弁として次のとおり述べた。
一、原告らの主張事実中第一ないし第四項の事実は認める。
二、庄原市職員組合は、ベトナム反戦、公務員の給与引上に関する人事院勧告の実施等を要求するため、昭和四一年一〇月二一日午前八時三〇分から午前九時三〇分ごろまでの間、組合員に対していつせいに職場を放棄して、同盟罷業を行わせたが、右当時原告らはいずれも右組合の執行委員として右争議行為を企て、この遂行を共謀し、組合員をそそのかし、あおり、自らも積極的な立場において、右争議行為に参加し、実行した。
三、そこで、訴外庄原市長らは原告らに対し、本件各懲戒処分をなしたところ、原告らは本件不利益処分審査の申立をなしたので、被告はいつたんこれを受理したが、右審査において、原告ら提出の昭和四二年五月二〇日付反論書及び被告提出の答弁書、証拠書類を精査し、さらに職権をもつて調査をなしたところ、本件各懲戒処分事由のうち、原告らは右反論書で少くとも昭和四一年一〇月二一日いつせい職場離脱、集会の開催に参加したことを自認していることが認められ、さらに庄原市職員組合が昭和四一年一〇月二一日午前八時三〇分から約一時間職場を離脱して、集会を行つたことは被告及び被告各委員にとつて公知の事実であつたこと等を総合判断した結果、原告らは前記争議行為をなしたとの結論に達した。
地公法第三七条第二項は、地方公務員が争議行為をなした場合、その行為の開始とともに地方公共団体に対し、法令又は条例地方公共団体の規則もしくは地方公共団体の機関の定める規程に基づいて保有する任命上、または雇用上の権利をもつて対抗することができなくなる、と規定しているところ、右雇用上の権利の中に不利益処分の救済方法である公平委員会に対する審査請求権が含まれていることは、右規定自体に徴し、明らかであり、各審査請求の受理後、前記のとおり、原告らが争議行為をなしたため、右審査請求権を有しないことが明らかとなつたので、受理を取消して却下の決定をした。
証拠<省略>
理由
原告ら主張一ないし四の事実は当事者間に争いがない。
そこで、地方公共団体の職員が地方公務員法第三七条第一項に違反して争議行為をなし、懲戒に処せられた場合は、同条第二項により、被告に対する右処分の不服審査申立権を喪失するか否かであるが、同条第二項の法意は、職員が争議行為を行つた場合は、これが違法であることを前提とし、憲法第二八条、労働組合法第七条等の争議行為許容の旨の規定が地方公務員法においては適用されず、同法第二九条所定の懲戒処分等不利益処分を受くべきことを規定したにとどまるものであつて、被告主張の如く、地方公務員法第三章第八節第四款所定の不利益処分に関する不服申立の規定による救済をも否定するものと解しないのを相当とする。したがつて、原告らに被告に対する審査請求権がないとしてなした被告の本件裁決は失当であり、取消を免れない。
なお、原告らは被告のなした請求の受理を取消した処分の取消を求めるところ、右の如く請求却下の裁決を取消す以上、その必要なきものというべきである。
よつて、原告らの本訴請求を以上認定の限度において認容、棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 長谷川茂治 雑賀飛龍 篠森真之)